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自分の感覚で生きられない、「憑依」されやすい人たちの苦しみ

以前、セッション中のカウンセラーの咳や体の痛みがクライアントさんから伝わってくる苦しみやトラウマ性のものに関係しているとご説明すると、「カウンセラーが苦しんでいるけど大丈夫なの?」と心配になり、「私のせいで苦しい思いをさせるなんてごめんなさい!」と罪悪感で辛くなってしまう方がいらっしゃいます、というお話をしました(この記事です)。

結論を先に言うと、全然気にしなくていいんです。むしろ、気にしないようになると、自分が解放されて楽になるだけじゃなく、相手も楽になっていくのです。

でも、そうは言っても気になって、カウンセリング中以外でも、日常生活で人のことが心配になったり、責任や罪悪感を感じてしまうという方もいらっしゃることでしょう。

そういった症状には、原因がちゃんとあります。

これから何回かに分けて、どうして人の苦しみが気になって自分も苦しくなってしまう人と、そうならない人がいるの?人の気持ちに敏感だとか、共感性が高いからだという話はよく聞くけれど、じゃあどうして人の気持ちに敏感になったり、共感性が高くなったりするの?脳のネットワークを通して感覚が伝わるってどういうこと?……という話を掘り下げていきたいと思います。

相手の気持ちを考えて苦しくなる人は、他人の感覚に「憑依」されやすいのかもしれません。いきなり憑依なんていうとぎょっとするかもしれませんが、怖い話じゃないんですよ。こんな状態に覚えはありませんか?

◇困っていそうな人にすぐ気が付く
◇緊張している人を見ると自分も緊張してくる
◇人に振り回される
◇嫌われるのが怖い
◇店員さんに勧められるがまま好みじゃない服を買ってしまう
◇この人機嫌悪いのかな?と感じると、自分が何かしたせいかもしれないと不安になる
◇人の機嫌を取ってしまう
◇嫌なことをされても怒れない
◇人の仕事を押し付けられて、断れずに残業続き
◇この人はすぐ怒るから嫌だけど、この人にも何か事情があるんだろうなと想像して自分の苦しみは過小評価してしまう
◇テレビで事件のニュースを見て、犯人や被害者の気持ちを考えて辛くなる
◇SNSで怒っている人のツイートを見ると自分も怒りが湧いてくる

どれも、人の気持ちになって、自分の感覚よりも人の感覚の優先順位が上がっている状態です。人の気持ちに敏感な方や、優しい人・いい人と評されるような方にとっては日常的な感覚なんじゃないかと思います。
最近では、HSP(highly sensitive person)やエンパスなんて言葉も広まってきましたね。

えっ、上に書いてあることって誰でもそうじゃないの!?と思った方、実はそうじゃない人もたくさんいるみたいなんですよ!

私自身、以前は人の気持ちを考えて気遣うことも、人のために生きることも当たり前だと思っていました。

例えば、自分がお金を払ってカウンセリングを受けている最中なのに、途中でカウンセラーの話を止めたら申し訳ないと思ってしまい、「ちょっと寒いので上着を羽織っていいですか?」と聞くことすらできませんでした。キャッチセールスに声をかけられると、話を聞かないと申し訳ない、断ったら傷つけてしまうかも……と相手の気持ちを想像して、とあるスクールへの入会説明を延々と聞くことになり、その後も何度もかかってくる電話に律儀に対応して、勇気を出して断ろうとしたら「あんたは人生をなめてる、そんなだからダメなんだ」と長時間説教をされたり(どうして!?)。美容に興味ありませんか?と呼び止められて、あやしいけどきっとこの人にも生活があるんだろうな……と想像して断り切れずについていったらやっぱりあやしい繁華街の雑居ビルの中に連れ込まれ、終電近くまで四時間以上説明を聞いて100万円近い美顔器を買わされそうになったり……。
いいカモを地で行く人間だったので、こんな修羅場エピソードには事欠きません……。

精神科に入院していた時はもっと重症で、病室のテレビで遠くの国でテロがあったとのニュースを聞いただけで「何もできない私が悪いんだ」と号泣して、薬を渡されたりしていました。

これは生きるのが大変だったのも不思議じゃないですね。

今でも人の気持ちを考える傾向はあるのですが、仕事では人に共感しても、なんらかの勧誘の電話が来たら「あ、結構でーす」と言ってすぐ切れるようになったので、変わったなあと自分でびっくりします。

人は干渉のない中で、自分の感覚にしたがって、やりたいことをやる・不快なものからは離れる、好きなものと繋がる、という行動が淡々とできていると楽なものですが、多かれ少なかれ、私たちは他者の影響を受けています。人の感覚は繋がっているので、その相手が近くにいないとしても、「あの人どうしてるかな?」と考えるだけでも意識が向いて、その相手に繋がります。FAP療法では、これを「脳のネットワーク」と呼んでいますね(脳のネットワークについては、また別に記事を書きます!)。

誰しも他の人たちと繋がっているのなら、どうして人の気持ちを考えて苦しくなってしまう人と、そうじゃない人がいるのでしょうね?

 

どうして人の気持ちになって苦しくなってしまうの?

人の感覚に憑依されやすい・されにくいの差は、何によって決まるんでしょうか。
まず、人の気持ちを感じすぎて苦しくなってしまうまでの過程には、ざっくり分けて

(1)人の気持ちを感じ取る段階
(2)感じ取ったものを他人の感覚と思えず、自分に取り込んでしまう段階

の二つがあると考えています。この二つは重なる部分もありますが、(1)の「人の気持ちを感じ取る」だけで止まって、(2)で自分のものとして取り込まない人もいます。

この二つを、こんな風に言い換えてみます。

(1)アンテナの感度が高いラジオのように、高感度で広範囲のチャンネルにチューニングしてたくさんの情報をキャッチしている
(2)キャッチした情報を自分にインストールしている(これが憑依)

なんとなくイメージできるでしょうか?

(1)のようにアンテナ感度が高いと、情報の海の中で生活しているようなものです。たくさんの不必要な情報(私はノイズと呼んでいます)が多いと、それだけ刺激が多くて疲れやすい、気が散りやすいといった症状が出ますし、その中から他人のものではない自分の感覚を探すのが大変になります。たくさんのウェブサイトを同時に閲覧していて、ありとあらゆる音を拾っていて混乱してしまう感覚に近いかもしれません。あるいは、電気屋のテレビ販売コーナーでたくさんのモニターにバラバラの番組が映っていて、騒がしい感じ。人混みに行くと疲弊してしまって大変ですよね。

(2)はちょっと強引にパソコンに例えると、ありとあらゆるウェブサイトから文書や画像や動画やアプリが勝手にダウンロード・インストールされて、何が最初から入っていたのか分からなくなるような感覚といえるかもしれません。感じ取ったものがすべて自分の感覚のように思えてしまうと、寝込んでしまう人もいます。一時的に感覚が繋がっても不快感を引きずらないのならまだいいのですが、相手が大変そうで心配し続けてしまうだとか、相手が置かれている状況がよくなるように私がなんとかしなきゃ!と感じると、脳のネットワークを通して相手の苦しみやストレスを自分が背負ってしまうことになります。自分一人の感覚以外に、10人分も100人分もの他人のストレスまで処理しながら生きていたら、思ったように動けなくて当然なのです。

じゃあ、(1)人の気持ちを感じ取りやすい、や(2)人の感覚を自分のものとして受け取りやすい、という特徴がある人と、ない人の違いはどこにあるのでしょう?
これは、書ききれないくらい仮説がたくさんあります。なので、一部になりますが、私の考えを交えながら書いてみます。

(1)人の気持ちを感じ取りやすい→アンテナ感度が高い、アンテナの種類が多い
生まれつきの脳の特徴・遺伝的特徴や、トラウマなどの影響で生じた脳の特徴などの要因(シナプスが十分刈り込まれずに成長した・扁桃体などの特定の脳の部位が慢性的に興奮している・暴言を受けていたので聴覚野が肥大している、など)によって、特定の刺激に反応しやすくなっている

(2)人の気持ちを自分のものとして受け取りやすい→ダウンロード・インストールされやすい
他人の感情や動きを真似するミラーニューロンが活発・自他境界が曖昧・人の苦痛を感じることで、トラウマなどの影響で自分の中に残っている解消されない苦しみを和らげる脳内ホルモンを分泌している、など

上では二つに分けて書いていますが、実際は要因の多くが重なり合っていて厳密には分けられません。自他境界に関連する遺伝子もありますし、生得的(生まれつき)と思われていた特徴がお母さんのお腹の中にいた時のトラウマの治療をするとなくなることや、遺伝だと思われていた症状が上の世代から受け継がれてきたトラウマの治療をすると緩和するということはよくあるので、どこからどこまでが生まれつきなんだろう?と、だんだん卵が先か鶏が先か分からなくなってきます。ですので、あくまでイメージくらいに捉えてみてください。

他にも、甲状腺機能、免疫、菌、ウイルス、腸内フローラ、骨格や筋肉の付き方、姿勢など、様々な要因が考えられます。新陳代謝や水の代謝(むくみやすさ)なども関係しているかも?と考えています。
カウンセリングの中で、クライアントさんご本人が胎児だった頃から今までの人生の歩み(成育歴といいます)だけでなく、ご本人とご家族の体質とこれまでにかかった病気についてもお伺いするのはこのためです。

 

やっぱりトラウマは見過ごせない

大きな要因として見過ごせないのがトラウマです。発達のどこかの段階、特に幼い頃にトラウマ体験をした人は、上記の(1)と(2)の特徴がある、つまり人の気持ちに敏感で、人のストレスを自分のことのように感じて苦しくなる方がとても多いです。

例えば、不安定な家庭環境など、安全かつ十分な安心感の中で生きてこられなかった人は、自分の命を守るために、少しの変化も見逃せなくなります。その結果、人の表情の変化などの情報をキャッチする能力を発達させて育ちます。特定の能力を発達させる他に、「もともと皆が幼少期には持っているが、普通は大人になるにつれて必要なくなるので失われる感覚を保持したままで成長した」ということもあります。もうこの感覚はなくても大丈夫だよ、安全だよ、となって通常は脳のシナプスが刈り込まれて必要な感覚だけに厳選される段階で、あの感覚もこの感覚も持っていないと危険を察知できないかもしれない!という環境にいると、シナプスが刈り込まれないのです。戦場育ちで、平和な時代になっても気を張っている感覚が抜けないようなイメージです。
シナプスが刈り込まれていないと、たくさんの高感度のアンテナが常にONになっているようなものなので、たくさんの情報が常に流れ込んできていて、気が散りやすく、一つのことに集中するのが困難になったりします。人と感覚が違うので、人にわかってもらえなくて孤独感に苛まれることもあります。

発達障害と病院で診断されてカウンセリングに来た人の中には、トラウマの後遺症で発達障害と類似の症状が出ている人が少なくない印象です。

他にもトラウマの影響はあります。例えば……

◇直接的に、養育者などから「お前が言うことを聞かないから」と言われて育った人に、「私が悪い」という暗示が刷り込まれてしまい、起きる出来事や人の感情の変化を「自分のせい」として背負ってしまう。

◇機嫌がころころ変わる人が近くにいる環境で育った人が、顔色を伺って、相手の気持ちを想像するようになる。

◇うつ病などに苦しんでいる人が身近にいた子供が、私が気にかけていないと大変なことが起きてしまうかもしれない、私が頑張れば治るかもしれない、と責任を背負い、人のストレスをなんとかするために自分が頑張るようになる。

◇癒えていない心の傷があると、似たような苦しみを感じている人に共感して居ても立っても居られなくなり、自分のことをそっちのけで助けようとする。

◇母親のつわりが重かった子供が、私がいなければお母さんは苦しまなかった、私はいない方がいい、と感じて人の苦しみに敏感になるだけでなく、私は酷いことをしたから嫌な目にあって当然だ、不快感をぶつけられても嫌だと思う権利がない、と思うようになる。

トラウマの治療を受けたクライアントさんたちが人の気持ちに振り回されて疲れなくなった、自分の感覚がわかった、と仰るのを聞くと、トラウマがいかに影響が大きく、それでいて長年に渡って見過ごされやすいものかと実感します。トラウマは(1)にも(2)にも関係しています。

「人の気持ちを考えて苦しくなる」「人に気を遣うのが当たり前」といった症状・特徴は、多くの場合、幼少期から長年にわたって続いているので、それは普通のことで、自分はそういう性格なんだと思っていらっしゃる方も少なくありません。人の気持ちを考えてしまうタイプの方は、なぜか忘れっぽいだとか、人と比べて小さい頃の過去の記憶が少ないという特徴をお持ちのことがあります(逆に、記憶力が飛びぬけていいために昔の嫌なことも他人の身に降りかかった出来事も全部「過去」にならず「今の私」を苛んでいるというケースもあるので、一概には言えないのですが)。

人に比べて記憶が少ない方の場合、トラウマの影響で記憶が抜けてしまっているケースの他に、「憑依」の影響が考えられます。人の感覚に「憑依」されていると、「体」は私のものでも「私の感覚」は私から離れてしまっているので、自分自身の感覚では生きていません。そして、自分の感覚で生きていないので、行動やその時々に感じたことが、自分の記憶として定着しないようなのです。ずっと生きている実感がなかった、何をやっても楽しくない、自分の好きなことがわからない、いつも人に振り回される……なんて方も、これに該当するかも。

トラウマって、よく「こういうことがあってショックで、トラウマになっちゃった」のような文脈で使われますが、本当のトラウマは記憶から抜けているものです。または、覚えていても断片的で、肝心なことは覚えていないことも多いのです。胎児だった頃から物心つく前にかけて起きた出来事はそもそも記憶にありませんものね。でも、具体的な出来事は思い出せなくても、受けたショックは体の感覚として覚えていて、無意識のうちに反応していることがあります。

なので、「私はこういう性格だとずっと思っていたけど生きづらさがある」という方や、「トラウマはないけど心身の不調があって、病院で検査しても原因不明だった」という方は、一度トラウマを疑ってみてもいいかもしれません。

 

色々な要因が影響していることはわかったけど、カウンセリングでは具体的にどうするの?

原因は人それぞれなのでどんなセラピーをするかも人それぞれなのですが、主に、FAP療法で人から伝わってくる感覚を切る・原因となっているトラウマを治療する・遺伝子コードを使う・今の自分の価値観にそぐわず、足かせとなってしまっている固定観念や養育者や他者から入れられた暗示を解く、などの心理療法・現代催眠療法の手法を使います。

その際、このようなことを目標にすることが多いです。

◇希望があれば、アンテナの感度を差支えない程度に落とす
◇自他境界を明確にする
◇人に繋がる感覚のON・OFFの切り替えができるようにする
◇自分の感覚と繋がるようにする
◇人から伝わってくる感覚が自分にインストールされないようにする。一度受け取ってしまっても、相手に返す・流すなどの対処ができるようにする

クライアントさんたちの回復プロセスを拝見していると、最初は人の感覚をたくさん背負っていて思うように動けなかった方でも、他人の感覚が取り除かれてすっきりした感覚を味わっていくうちに、新たに自分のものではない感覚をアンテナがキャッチした時に、これは私のものじゃないな、不快だな、とスルーして受け入れないという選択が自然にできるようになっていくみたいです。

「不快なものを見てもスルーしよう!」と決めても、体や脳が先に反応して沸き起こる不快感に意識で戦うのは大変です。
でも、不快なものが視界に入っても、もう今の私にとっては脅威ではないんだとを無意識が覚えれば、脳も体も反応する必要がなくなるので、意識が戦う相手がいなくなり、「スルーしよう」と努力する必要すらなくなるのです。

トラウマの影響や人から入れられた暗示から解放された「本来の自然な私」に戻るだけだから、必死に努力して変わらなきゃ!って話ではないのですね。
不快なことに反応せず、私自身にとっての快を選べるようになって、何を受け入れるかを自分で選べるようになるって、とっても楽しいです。

人に共感して疲れちゃわないですか?どうやって対処しているんですか?と、同じく共感力の強いクライアントさんから聞かれることがあります。確かに、アンテナをONにして張り巡らせながらお会いする人すべての苦しみに共感して自分のものとして取り込んでいたら、すぐに潰れてしまうことでしょう。でも、コツがあるので全然苦じゃないんです。

コツというのは、「カウンセリング中はアンテナはONにして、終わったらアンテナをOFFにするかチューニングを止めて、自分のものではない感覚は流してしまう。そして、自分の感覚と繋がる」、というものです。
つまり、上に書いた目標と同じことです。カウンセリング中は全身の感覚を使って共感しているので痛みや苦しさを感じるのですが、その後に自分のものとして取り込み続けないので、引きずらないのです。

ただ、本来の私の感覚に戻るだけ。

これに関連して、次回はストレスについてお話しますね。私が心配をやめることで、私も相手も解放されていくという話です。
書きたいことが溜まっています!

ではまた~。

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